作山若子さんは、オーガニックやフェアトレードにこだわった飲料メーカーを経営しています。その背景には、出産経験での味覚の変化や、仕事を通じて農家の劣悪な生産現場を見聞きした経験がありました。
仕事の経験 |
結婚 | 子ども |
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生かした | していた | いた |
高校卒業後、大手百貨店グループ勤務を経て、株式会社ユナイテッドスティール(現・ユニマットライフ)に入社。営業職として手腕を発揮するが、家庭をもっと大事にした働き方がしたいと独立。オーガニックやフェアトレードの商品を扱う飲料メーカー、株式会社和みを設立する。ブランド「NATULURE」「和顔愛語」の実店舗・オンラインショップのほか、お茶やコーヒーのアドバイザーを養成・認定する任意団体、日本ティーコンシェルジュ協会も運営。株式公開も視野に入れている。
年齢 | 西暦 | 主な活動 |
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18歳 | 1988年 |
高校卒業。イトーヨーカドーグループ百貨店、株式会社ヨークマツザカヤに入社 |
20歳 | 1990年 | 株式会社ヨークマツザカヤを退社。株式会社ユナイテッドスティール(現・ユニマットライフ)に入社 |
24歳 | 1994年 | 営業職として全国ベスト1位を獲得 |
28歳 | 1998年 | 結婚 |
29歳 | 1999年 | 出産。社内の女性初として産休後復帰し、仕事と育児を両立 |
32歳 | 2002年 | 同社を退社。個人事業主として独立半年後、有限会社和みを設立 |
34歳 | 2004年 | 資本金を1000万に増資し、株式会社へ組織変更 |
35歳 | 2005年 | 実店舗「NATULURE」本店を東京・銀座に出店 |
36歳 | 2006年 | 日本ティーコンシェルジュ協会を設立。新たなブランド「和顔愛語」を立ち上げ、「NATULURE」と共に、オンラインショップ事業をスタート |
37歳 | 2007年 | 「NATULURE」を松屋銀座、新丸ビルに出店。「和顔愛語」の実店舗をベルビー赤坂、プランタン銀座、エキュート立川に出店 |
有機栽培やフェアトレード(*)に特化したお茶やコーヒーを、製造から卸し、販売まで一貫して行う作山若子さん。大手飲料メーカーの管理職として、各国の農場や工場を視察していたことで、最前線で飲料製造の現場を見てきました。「どこも劣悪な環境でした。特に生産者は農薬を散布するので、いくらマスクをしていても、肌から農薬がしみこんできます。しかも、茶葉は直接口に入るもの。生産者はもちろんのこと、お客さまの体にとっても、決していいとはいえませんよね」。
そんな疑問を感じていた頃、作山さんは出産を経験。それによって、添加物の入った味の濃いものは体が受けつけなくなり、これまではあまり感じなかった香りが強く感じられたりするように。「子どもができたことで、食に対しての安全性を考えるようになりました」。社内初の女性役員候補と呼ばれる、申し分のない待遇や立場。それと引き換えに多忙な生活を送っていた作山さんは、もっと家族に寄り添った働き方がしたいという気持ちになっていきました。仕事を通しての疑問、母親としての思いがひとつになり、起業を決意。2002年、多くの人に引き止められながらも「会社に恩返しできる企業をつくります」と退職したのは、ひとり娘が1歳の頃でした。
まずは、コーヒーと紅茶の卸し販売からスタート。得意の営業力を生かして、次々に取引先を開拓する一方で、作山さんは茶葉の生産地などを回り、有機栽培を行う生産者とヒザを突き合わせて、卸しの依頼をしていきました。「業界の人は産地を回っても、畑も見ないで帰る人が多いんですね。でも私は長靴を履いて、畑に入って、土を触って、化学や医学的な側面から生産者にアドバイスや提案をしていきました」。作山さんは幼い頃、父親が病気になったことをきっかけに、医者を目指して独学で東洋と西洋医学の両方を学んだ経験がありました。その知識がここで生きたのです。「あなたは他の飲料メーカーとは違う」と絶大な信頼を得て、生産者が生産者を呼ぶクチコミで、製造を委託する農家が増えていきました。「私は有機栽培をしていない農家にも有機栽培を勧めていたので、有機に転向する農家もどんどん増えていきました」。また、環境負荷の配慮にもこだわり、エコロジー素材を扱う包装会社などを開拓。包装材やティーバッグなどのパッケージ類は、すべて土に帰る素材を使用しました。
法人の取引先が増加する中、通信販売会社にも商品を提供。大手の通販カタログやテレビ通販番組でも紹介されるようになりました。「すると、消費者の方からお礼の手紙が届くようになったんです。カタログやテレビで紹介されるのは自社商品の一部でしたから、『他の商品はないの?』『お店は持っていないの?』という声をよくいただき、それならば実店舗を出そう」。そう意思を固めてから半年後、出店するなら東京の一等地に出したいと、銀座の路面店で「NATULURE」をオープンしました。店舗物件は、知人の経営者からの紹介でした。「銀座の不動産オーナーは皆、高額で借りてくれる人に貸すよりも、センスのあるお店をつくってくれる人に貸したいという気持ちが強いんです。それが私の事業とマッチしたのだと思います。ここでも、とことんオーナーと話をしたら気に入っていただけたんです」。2006年には、新たなブランド「和顔愛語」を立ち上げ、「NATULURE」と「和顔愛語」のオンラインショップもオープン。全国のお客さまが作山さんの商品を購入できる仕組みを構築しました。
また、任意団体として日本ティーコンシェルジュ協会も設立。コーヒー、紅茶、日本茶、中国茶、ハーブティーといった飲料は、食べ物とのマッチングが重要で、体調に合わせて飲むことによる健康促進の効果もあります。そこで、これら植物原料の飲料についての正しい知識を身につけ、飲用方法をアドバイスできるティーコンシェルジュを養成・認定する団体を立ち上げたのです。「飲食店などをされる方はもちろん、一般の方でも飲料の正しい知識を持ってもらうことで、家族の養生に役立てることができます。商品販売でお客さまの健康に貢献するだけでなく、知識を普及させることで、社会に訴えていこうと思いました」。
2007年には、社員数も30人を超え、実店舗も8店舗に増加。作山さんはさらなる飛躍を目指し、株式会社和みの株式上場も視野に入れ始めました。しかし、この社名に込めた思いは、変わることがありません。「和み」には、世界の人が豊に生きられるよう衣食住を通じた貢献ができる企業でありたいという経営理念、地球環境と共存し、顧客満足度ナンバーワンになるという事業目的への思いがあるのです。「最近は、オーガニックやフェアトレード、エコなどにこだわるお店が増えましたが、そういったメッセージを追求しすぎるのは、営利組織である企業として不十分だと思います。まずおいしいことが第一。その上で健康や環境に配慮していることが大切ですし、当然、お客さまの満足度を上げるサービスやホスピタリティも企業の継続や発展には欠かせない要素です」。本業で社会貢献を実践することで営利を追求する作山さん。その企業活動の幅は、ますます拡大していきそうです。
*フェアトレードとは、公正貿易または公正取引の意味で、発展途上国の生産者から、原料や製品を購入したり作業を依頼する場合に、公正な賃金や労働条件を保証した適正な価格を守ることで、途上国の自立と環境保全を支援する国際協力の新しい形態。
会社(団体)名 | 株式会社和み |
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URL | http://www.nagomi-tea.co.jp |
創業 | 2002年4月 |
設立 | 2002年9月30日 |
業務内容 | オーガニックやフェアトレードの世界のお茶、コーヒーの輸入・製造・卸し・販売 |
大きなきっかけは、家族が幸せになる働き方がしたい、ということでした。会社に勤めていた頃は、午後9時以降に社内会議が始まることも多かったのです。家族の幸せがあってこそ仕事にも打ち込める自分の幸せがあるのに、家族の時間をあまりつくっていないことに、はたと気づきました。若い頃は「仕事か家庭か」と二者択一で考えてきたところがありますが、仕事も家庭もどっちも欲張りになってもいいんじゃないか。それなら、自分で仕事も働き方も決められる生き方をしようと起業を選んだのです。男性社会の中で戦って、女性社員の中では抜群に待遇も立場も良かったので、ずいぶん上司や社長から「何の不満があるんだ」と止められましたが、生き方は変えられませんでした。
全然準備していませんでした。いきなり走り始めてしまったので、苦労しました。最初はコーヒーと紅茶の卸しから始めたのですが、お茶の生産者や包装会社などは、会社員時代の競合会社の社長に独立の挨拶をした際に教えていただきました。また、運転資金も用意せず、在庫をストックできなかったので、取引先に無理を言って入金を早めてもらって、そのお金で仕入れをするなど、起業当初は結構危ない橋を渡っていました。
ありませんでした。初めて雇った従業員がまさかの退職をして落ち込んだことも、取引先が倒産して真っ青になったことも、取り込み詐欺に遭って悔いたこともあります。確かに、その時はショックですが、それを苦労だとは思っていません。前に壁が立ちはだかっても、壁は超える楽しみがあるものですし、失敗は改善のもとだと思っています。
応援してくれる友人や先輩が回りに大勢いたことだと思います。たとえば、「就業規則は何を基準につくればいいんだろう?」と相談すると、自分が勤める会社の就業規則を教えてくれる人もいました。わからないことは肩肘張らないで、素直に人に聞いて教えてもらう。その姿勢は大事だと思います。
家族も協力的でしたし、両親にいたっては、自ら喜んで孫の面倒を引き受けてくれました。師匠と仰ぐ先輩や競合他社の方などからもアドバイスをたくさんいただきましたし、人には恵まれていたと思います。本当に感謝しています。
三井住友銀行本店の役員食堂が最初のお客さんでした。ずっと営業職でしたから、営業活動は得意中の得意でした。決裁権のある方を狙って、とにかく飛び込み営業。それが基本です。
自治体や国などの公的機関は、助成金や融資といった様々な起業支援制度を設けています。そういったサポート情報はよく調べて、賢く活用したほうがいいと思います。私も雇用することで一定の金額を得られる、助成金制度を活用しました。また最近も「中小企業新事業活動促進法」の認定を受けて補助金をもらいましたが、国や自治体の制度を活用できるということは、公的機関に事業を認めてもらったということですので、胸を張って、大いに活用してください。
経営者の先輩の方々です。また、三井住友銀行の「SMBC経営懇話会」の会員になって、経営者が集まる交流会にも参加しました。そこで出会った経営者の方々からもたくさんのアドバイスや支援をしていただけました。
個人事業で始めましたが、その時は0円で始めています。起業半年後に、取引上、法人化する必要性があり、有限会社を設立しましたが、その際も全く資金がありませんでした。本来、人にお金を借りるのは大嫌いなタイプなのですが、「一生かけても返さなければ!」と信頼する人からお金を借りようと思い、師匠と仰いでいる先輩から、資本金の300万円を借りました。もちろん、がんばって返済しました。
個人事業で始めた当初は自宅をオフィスにしていました。法人化にあたってオフィスを借り、その後、組織が大きくなったので、現在の東京・日本橋人形町のオフィス街へ移転しています。また、実店舗は銀座の路面店に初出店。ほかにも、百貨店内に出店し、2008年1月現在、8店舗を構えています。
税理士、弁護士、弁理士、社会保険労務士などの専門家は、知人から紹介してもらいました。特に、売買に関しての契約書は素人がつくるには限界がありますから、弁護士にお願いしたほうがいいと思います。また、ブランド名「NATULURE」「和顔愛語」も商標登録されていないか弁理士にチェックしてもらったうえで、商標登録をしています。
起業して3年経った頃、尊敬できる経営者からのアドバイスで、株式上場を視野に入れたことが転機といえます。上場すると社員の士気が抜群に上がることを会社員時代に経験していたので、「一流企業」という意識を社員に持ってもらいたいと思いました。株式上場自体は、資金調達のひとつの手段でしかないと、私は考えているので、実際にするかしないかはともかくとして、いつでも上場できるくらいの力量は付けたいと思っています。
いつも感じていますが、大きく言えば、3つの階段を登ったと思っています。1つ目は、5人の社員を雇用し、経営者としての責任を感じたのと同時に、テレビ通販番組で商品販売を始めて、お客さまに対する責任感が強くなったとき。2つ目は、株式上場を意識して、公の会社になろうと社員に伝えたとき。そして、3つ目は、企業規模が大きくなって社員の成長を実感し、さらに優秀な人材を迎えることができると感じたときです。
起業はひとりではできません。人の助けがあってこそ、やりたいことを長く続けられます。私もたくさんの人の縁と助けがあって、これまで続けてきました。ですから、相談できる人をぜひ見つけて大事にしてください。
自分のお気に入りのカップで、好きなお茶を飲むことです。当社は、とうもろこしを原料にした土に帰るティーバッグを使うなど、味や健康だけでなく、環境配慮にもこだわっているんです。
私は営業活動は得意でしたが、それ以外に関しては不勉強で起業してしまったので、やりながら、ぶつかりながらこれまできました。ですから、「早くにその情報を知っていれば、もっと勉強していれば、こんな苦労をしなくてもよかったのに」と思うこともしばしばです。これから起業を考えている人は、ぜひ経営についてしっかり勉強してください。