主婦のマーケティング力とクチコミ力に早くから注目し、主婦の組織化をかかげて株式会社ハー・ストーリィを起業した日野佳恵子さん。現在、会員は10万人を超え、多くの企業から期待が寄せられています。
仕事の経験 |
結婚 | 子ども |
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生かした | していた | いた |
島根県出身。タウン誌編集長、広告代理店プランナーを経て、同広告代理店で出会ったさとうみどりさんと共に、主婦市場を専門とするマーケティング&コンサルティング会社、有限会社ハー・ストーリィを設立。業績を伸ばすなかで株式に組織変更し、主婦層を中心とした“女性戦力化プログラム”や女性の共感を呼ぶブランド戦略で企業の信頼を得ている。著書に『社長、女性のセンスを生かせなくて会社が伸びますか』(三笠書房)など。
年齢 | 西暦 | 主な活動 |
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22歳 | 1984年 |
タウン誌編集会社入社(広島) |
25歳 | 1987年 | 出産のためタウン誌編集会社退職 |
26歳 | 1988年 | 広告代理店入社(広島) |
29歳 | 1990年 | 広告代理店を退社し、同じ職場でイラストレーターをしていた、さとうみどり(現代表取締役副社長)と共に、有限会社ハー・ストーリィ設立 |
30歳 | 1991年 | 「見つめる‘90」、NHKのドキュメンタリー番組で取材、放映され注目を受ける |
32歳 | 1993年 | 全国ニュービジネス大賞 奨励賞受賞(国民金融公庫推薦)。子ども古着ショップ「リシュラ」開店 |
37歳 | 1998年 | アメリカの経済紙フォーブス日本版の「日本の女性社長100人」に選ばれる |
39歳 | 2000年 | 株式会社ハー・ストーリィに組織変更。中国ニュービジネス協議会副部長に就任 |
40歳 | 2001年 | 日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」ネット部門6位 |
41歳 | 2002年 | 『クチコミュニティ・マーケティング』(朝日新聞社)出版 |
43歳 | 2004年 | 「女性のチャレンジ賞」(内閣府男女共同参画局)受賞 |
44歳 | 2005年 | ISMS情報セキュリティシステム認証を取得(広島県のマーケティング会社初) |
45歳 | 2006年 | プライバシーマーク取得 |
26歳のとき、主婦と育児をしつつ広告代理店に勤務していた日野佳恵子さんは、住宅設備機器メーカーやインテリア関係の会社、スーパーといったクライアントを相手に、プランナーとしての仕事をこなしていました。実は、このときに感じた憤りが、起業の出発点になっています。
「主婦に向けた企画や販売促進なのに、企画側に“主婦の声”がまったく反映されていないということに愕然としましたね」
そして、やはり主婦と育児をしつつ同じ職場でイラストレーターとして勤務していた、さとうみどりさんと意気投合し、「主婦の声を生かして何かやりたい!」と会社設立を考え、広告代理店を退社します。
「当時は会社がどういうものなのか、わかっていませんでした。いまのように女性の起業についての情報もなかったので、とにかく本を買い求めて勉強しました」
当時、有限会社の設立には200万円が必要だったそうですが、自己資金のなかった日野さんたちは、本を読むうちに“現物出資”で資本金ができることを知ります。持っていたパソコンを現金として換算したり、自家用車の名義を法人化するなどして資本金をつくり、ワンルームマンションを借りて、退職から2ヵ月後には有限会社ハー・ストーリィを設立しました。
現在は、株式会社に組織変更し、地元広島に本社、東京に支社を持ち、従業員50人以上を抱える企業に成長したハー・ストーリィですが、スタートは7坪ほどの小さなワンルームマンションでした。
“市場は、必ず主婦の声に耳を傾けるようになる”と、いち早く予想していた日野さんたちが最初に取り組んだのが、主婦の組織化です。チラシを撒いたり、保育園まわりをしたりして、主婦によるモニター会員組織をつくりました。会員になるメリットは、サンプルが試せることや、アンケートに答えると商品券などの薄謝が受けられることでした。
「ただ、当時は無名の組織なので、最初からそんなに多くのモニター依頼があるわけではありません。私たちが描いていたビジネスモデルがうまく伝わらず、仕事の受注がなかなか得られませんでした。とにかく、飛び込みで営業して、仕事を選ばずに収入を得ていましたね」
しかし、その一方で主婦の組織化は着実に進められました。
「モニターの受注がないときは、横のつながりが持ちにくい主婦のために、近所の公民館や集会所を借りて、交流会や勉強会をよく開いたのですが、そのうち、こっちのほうが広がってきたんです」
まず100人を目標に始めた組織づくりでしたが、クチコミで増え続け、起業した年の年末には500人の会員数に。マスコミの注目も集めだし、日野さんが思ったとおり、“主婦の声”が企業の耳に届き始めたのです。
1999年にインターネットによる会員制度を導入したことによって、会員数は飛躍的に伸びて、現在10万人。さらに、ネット上でポイントシステムを構築し、アンケートやモニターの謝礼を郵送していた手間とコストを、ポイント還元とキャッシュバック制の導入で大幅に軽減しました。
「インターネットは県外にビジネスチャンスを広げてくれたので、会社の規模も大きくなってきましたが、従業員が50名を越えると、これまでのやり方で管理することはできません。なので、2年ほど前から大手企業の幹部をヘッドハンティングして、業務管理と組織の細分化を徹底するようになりました」
そして、日野さんは女性による組織づくりの秘訣をこう語ります。
「女性がよく言われる“視野が狭い”ということは、言い換えれば“深くてマメ”ということ。その特性を生かして仕事を細分化し、責任を持たせることが大切です」
ハー・ストーリィは、現在、目的別にコミュニティサイトをつくり、そこで紹介した商品自体がクチコミで広がっていくといったような、広告媒体としての価値も生み出しています。
女性の購買決定力が高まるなか、今後の同社の展開にさまざまな企業から期待が寄せられています。
会社(団体)名 | 株式会社ハー・ストーリィ |
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URL | http://www.herstory.co.jp |
設立 | 1990年8月20日 |
業務内容 | 女性市場を専門とするプロモーション、マーケティング、コンサルティング |
結婚、出産後に就職した広告代理店で、女性層をターゲットにしたクライアントを担当していました。男性中心に、机上の思考で企画をしていることに疑問を持ち、女性向けの企画を女性の力で立案できる会社を創りたいと創業しました。なかでも主婦層を得意とする会社は少ないので、主婦の声を集める会社を始めました。
起業関係の本、創業手続きのノウハウ書など、さまざまなビジネス書を読みあさりました。
もともと起業を予定していなかったので、独立資金を持たないまま創業したため、運転資金に苦しみました。また、「主婦の声を生かす」という商品は、目に見えないため、地方では業務内容がなかなか伝わらず、当初は仕事が受注できませんでした。
珍しかったので目立ったことでしょうか。人がやりそうでやっていないので話題性になり、マスコミ取材が頻繁にありました。
夫、私、子ども1人の核家族で、夫は帰りが遅いこともしばしばでしたので、起業パートナーのさとうみどりさんと、保育園のお迎えや食事などを自分の子どもと同様に行って助け合いました。
人の紹介、昔の知り合いから広がっていきました。あとはイベントや情報紙を作り、参加企業や広告出稿主を募ったことがきっかけとなって続いていきました。
事業イメージ。どのような特色を出していけるか、すでに類似した企業や目指すべき企業があれば、調べることが大事です。
商工会議所、ニュービジネス協議会などの団体に入り、人脈を拡げました。資金の面では、創業一年後に、国民金融公庫に相談して、最初の融資を受けました。
200万円。
広島に本社とグループ会社(子ども服リメイク&雑貨販売業)。東京に支社があります。
一年間は自分でいろいろしましたが、一年後に税理士を頼みました。その後、社会保険労務士にも早くから依頼しました。
1999年にインターネット会員制度を導入したこと。それまで、FAXと印刷物でまかなっていた会員組織を一度解散し、ホームページ開設、情報はすべてメールでと、会員組織のIT化を実現しました。その結果、会員数が飛躍的に増員し、2004年には10万人を越え、増員中です。
自分の常識は人の常識ではないこと。自分ひとりではできないことが多くの人の力によって成し遂げられること。人を信じて任せること。
それから、組織マネジメントの重要性です。2人で創業しましたが、10名、30名、50名以上では、組織がまったく違うことを経験中です。
起業することが「志」ではありません。「何のために」「誰のために」「どの程度の規模にするのか」をしっかり考えてから起業することが大事です。また、「気持ち」よりも「ビジネスモデル」のほうが重要です。世の中に必要と感じられ、貢献でき、なおかつ、収益が確保できる事業モデルを確立することが大切です。
起業は誰でもできますが、始めることより閉めることのほうが難しい。迷惑をかける人も多くなります。
娘と過ごし、娘を通じて世の中をウォッチすることです。
創業してすでに17年になりますが、振り返ると3年に一度、危機感が訪れ、5年すると世の中は大きく変化しています。創業期の志は変わらなくても、ビジネスモデルや商品、サービスの提供の仕方は、世の中の流れにそっていなければ、そのとき売れても、すぐに売れなくなります。世相を見ていくのは経営者の仕事です。
起業はスタートであり、その後は終わらない旅です。
常におごることなく、時代に必要とされ続けるために、起業家は半歩先を読み続けていく必要があると思います。