起業レッスン013 : ミニ起業家物語 − おばあちゃんのアドバイス
前回から、ミニ起業家像のモデルとして登場した
佐藤真美さんの起業話をはじめました。
佐藤さんは、勤務していた会社を辞めることになり、
喜びのある暮らしと、やりがいがありキャリア形成できる
仕事を見つけようとしていましたが、
周囲からは「夢をみないで、現実をみろ」と
忠告を受けていました。
そんな時、遠く離れた実家に帰省し、久しぶりに
父方の祖母であるおばあちゃんに会いました。
戦中世代で86歳になるおばあちゃんは、
地元では、行動的で自由奔放な人柄が知られていました。
孫娘の佐藤さんを、小さい時から
よく可愛がってくれましたが、今は
胃ガンで地元の病院に入院しています。
病院を見舞った佐藤さんが、
事の顛末を一通り話した後に、
おばあちゃんは孫娘に語りはじめました。
【佐藤真美さんのミニ起業家物語-2】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「、、、、、あなたも知っているように、
私は随分とわがままに生きてきたわ、、、
みんなからもよく言われたよ、自分勝手な人だって。
でもね、今ふりかえってみると、
私のわがままなんてたいしたことなかったなぁ。
それより、どうしてあんなに焦って、
先へ先へとしなければならないことを見つけて、
忙しくしていなければならなかったのか、
今となっては不思議よ。
外からは、好き勝手なことをやっているように
見えたかもしれないけど、
生きていることに必死だったのね。
青春を戦争に生きた世代の宿命かしらね。
だけど、この年になって、といっても大分前からだけど、
ようやく呪縛が解けたように感じるの。
老いと病のおかげで、
長い間空っぽの時間を過ごせたからかしら。
家の用事もできなくなり、
友達との交流もなくなり、
みんな死んじゃったからね、、、
なにもしないひとりぼっちの時間が増えたわ。
ガンになってからは、
死ぬ覚悟もなんどもしたので、
未来への執着もなくなったし、
それと一緒に心配や不安もね。
あとは死ぬだけなんだから、
未来も心配もへったくれもないわよってね。
毎日静かで穏やかな時間が淡々と過ぎて、
出家して坊さんになったようなものよ。
そうしたらね、
昔のことがいろいろ思い出されて、
忘れていた細かいことまでが、、、
、、、太陽が沈んだ後に星々が現れるようにね。
毎日毎日思い出に生きて、
随分と多くのことを思い出してから、気づいたの。
あぁ、私は本当には生きていなかったなぁって。
わがままに生きてきたつもりだったのに、
真底生きてなかったなぁって。
棺桶に片足突っ込むようになると、
人生の真実が見えてくると言うでしょう。
というよりも、後悔に苛まれるようになると
言ったほうがいいかしら。
後悔って言うのはね、、、
真底生きなかった、、、
自分を生きてこなかった、、、
自分の代わりに世間が生きていた、、、
、、、という悔いのこと。
私は、この年になって、
死ぬことはこわくないとは言わないけれど、
もういつ死んでもいい、と思ってる。
でも、生きたい!という思いも強くあるのよ。
その思いは、ますます強くなっている。
86にもなれば、十分すぎるほど生きたはずなのに、
そうじゃないのね、、、
今度こそ自分を生きたい
十分に生きたい
今を生きたい
生きることを味わいつくしたい
、、、と、、、
子供のように
少女のように
、、、思えるのよ、、、
明日を気にかけないで、今日を生きたいってね、、、
もし、また旅行に行けるのなら、
計画をたてないで
思い立ったらすぐにでかけるわ。
スーツケースなど持たないで、
バッグひとつで気軽にね。
子供のように、ばかなこともしたい、、、
昔は、いつも、<成功>しなければいけないと
考えていたけど、ほんとにバカバカしい。
こんな強迫観念が、これだけ世間にはびこれば、
神経症患者が増えるのもあたりまえね。
呪縛が解けてみると、
世間がもてはやす言葉にとらわれることが、
どれだけ生きることを邪魔しているかがよくわかるの。
<成功>を否定しているのじゃないのよ。
若い頃の<成功>という言葉には、輝きがあったわ。
純粋な好奇心に満ちているし、意欲や勇気を育んでくれた。
でも、それを追いかけはじめるようになると、次第に、
自分が望むものをもっていないという不満や不安が強くなってくる。
未来に向けて引き上げてくれていた力が、反対に、
重く錆びついた足かせのようになってしまうのね。
もし、若いころにもどれるなら、、、
今度は、もっと失敗をして、失敗を楽しみたい。
もっと喜びたいし、笑いたいし、
悲しみも苦しみも含めて、
もっと生きることを楽しみたい。
この世の中は、
おもちゃ箱をひっくりかえしたような世界よ、、、
ディズニーランドのような、、、
そう考えると、幼児のようにワクワクしてこない?
今は、窓の外を眺めることしかできないけれど、、、
それでも、陽の光、青い空、流れる雲、
風にそよぐ木の葉、
窓に滴る雨粒、
夜明けの鳥のさえずり、
遠くに聞える子どもたちの声、
それらのすべてが、この上なく素敵で愛しくて
時折あふれるように涙が流れてくるわ、、、
人生は、、、
この世界は、、、
生きているということは、、、
、、、甘美そのものなの。
今、そのことがようやくわかったわ。
だから生きたいと思ってる。
でもね、、、だからこそ、、、いつ死んでもいいと思えるのよ、、、
そのことを知ったから、、、
そういう目で、自分の人生を再発見できたから、、、
「生きたい」というのは、「未来への執着」とはちがうんだって
わかってくれるかしら、、、
だから、他の人の言うことは放っておきなさい。
世間の常識や慣習も無視しろとは言わないけど、
遠目で眺めておきなさい。
自分の心の底から湧き上がってくる思いを大切になさい。
世間におもねって、自分に申し訳ないことをしないようにね。
戦争が終わった時、私は18だった。
当時は、食べ物が無くて、着物や宝石などを二束三文で、
米や野菜や魚と交換した。
その日その日に食べるのがやっとという時代だった。
仕事が無いとか、生活が不安定とか言うけど、
今の貧乏は当時に比べると天国のようなもの。
昭和20年に、日本は本当に滅びる寸前だったのよ。
国が亡び社会が壊れてしまうことがあるんだと、その時知ったわ。
正義と悪も、敗戦を境に逆転した。
信じていたものは一挙に崩れてしまった。
そういうものはみな幻のようなものだと、その時
身にしみて理解したつもりだったけど、、、
いつのまにか、忙しさにかまけて、忘れてしまっていたようね。
だからね、あなたが生きる証(あかし)は、そういうところにはないのよ。
静かな時間の中で、自分の声に耳を傾けなさい、、、
そして、自分で発見し創る喜びを選びなさい、、、
その喜びを味わいつくしなさい、、、
味わうためには、しっかりと目覚めていなさい、、、
眠ってしまうと、あなたのかわりに、世間が生きることになるからね、、、」
、、、おばあちゃんの遺言かな、、、帰路、佐藤さんはふと思った。
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、、、続きは、次回へ、、、
大久保忠男
** 以上は、2013年11月28日配信<起業レッスン>の再掲です *
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