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起業レッスン004 : 起業家像の変遷 

前回は、<起業>を、便利で軽やかなツールのようなものに、みたててほしいと話しました。

今日は、<起業家>像について話します。

これが理解できると、<起業>に対する世間の意見や忠告を、客観的に見れるようになれます。

というのは、世代によって、<起業家>への見かたが大きく違っているから。

だから、いろいろな人の話を聞けば聞くほど、<起業>についての理解が混乱することになる。

親や先輩の<起業家>への見かたは、あなたと違っているでしょう。

10年以上前に社会人になった人は、<起業家>という人種に対する、当時の先入観があります。

その先入観は、世代ごとに違っていますが、多くは、否定的で厳しい見かたをします。

特に、自分に身近な人(家族や後輩)が<起業家>になろうとすると、不安や心配が先立つから無理もありません。

だから、親や先輩など世代の異なった人たちからの忠告やアドバイスは、その時代背景を合わせて理解しなければいけない。

そうすれば、厳しい忠告や否定的な意見に対して、むやみに落ち込んだり反発したりしなくてすみます。


さて、戦後の代表的な起業家は、みなさんご存知のように、ソニー創業者の井深大さんや、ホンダ技研創業者の本田総一郎さんのような人たち。

今では伝説上の人物ですが、戦後の焼け野原から高度成長期にかけては、彼らのように、起業家が日本の復興を担う、英雄的時代でした。

この時代の起業家像は、特別な能力を有する<英雄>です。


時代が下って、私が社会人になった頃(1970年代後半)は、堅固な会社(従業員)社会ができあがっていて、起業家は、その会社(従業員)社会から、ドロップアウトした変わり者とみなされていました。

つまり、この頃の起業家像は、<アウトサイダー/はみ出し者>。

1980年代はじめに、私がサラリーマンを辞めて起業しようとした時は、常軌を逸した無謀な行動だと、周囲からたしなめられたものです。

しかし当時、米国ではすでに<プレ起業家社会>に突入しようとしていました。

年間60万社もの新会社が誕生していたのです。

対して、日本は5万社程度。

1979年には
マリリンファーガソン著『アクエリアン革命』が、米国で出版されています。

この本は、世界に先がけて、米国が<プレ起業家社会>に突入しつつある現象を、さまざまな分野(医療、教育、先端技術、IT、農業、小売など)で分析し、その背景と将来について洞察した画期的なレポートです。

私は、その翻訳本を読んで、来るべき起業家社会の予感にワクワクし、当然、日本にもその波がまもなく押し寄せてくると早合点して、会社を辞めてしまったのです。

昔からあわて者でしたが、いつまで経っても、その兆しはなく、すっかりあてがはずれました。

反対に日本では、旧来の会社(従業員)社会がかってないほどの繁栄を謳歌していました。

日本の全土地資産価格で、米国の全土地が二重に買えると言われるまでに、、、、、


この後1980年代末に、歴史的なバブル崩壊が到来し、日本は、<失われた20年>と称されるデフレの時代に入ります。

日本に<プレ起業家社会>の兆しが見え始めたのは、1990年代の後半あたりから、、、ネットバブル前夜の頃です。

いわゆる、ベンチャーブームの時代へ、、、

この時、<起業家>が、ようやく一般の社会人でも、すこしやる気のある人には、現実的な選択肢のひとつになり得ると考えられるようになります。

なかでも意欲的な起業家は、IPO(株式上場)を目指しました。

成功すれば、多額のキャピタルゲインが得られたのです。

<ほりえもん>や<楽天三木谷社長>は、時代の寵児となりましたね。

つまり、このころの起業家像は、<ベンチャー/成功者>です。


ネットバブル崩壊後は、その反動で安定志向への揺り戻しがあり、大会社や公務員への人気が高まりましたが、、、

それでも、起業家社会への扉は徐々に開かれ、多様なスタイルで日本社会に浸透します。

2007年のリーマンショック、そして2011年の東日本大震災、、、

この二つの大事件が転機となり、遂に、旧来の会社(従業員)社会は終焉(しゅうえん)に向かいます。

終焉といっても、会社が無くなるということではないですよ。

正社員というような言葉が無意味になる社会へ変わっていくということです。

そして、没落する会社(従業員)社会にかわって、本格的な<起業家社会>到来のきざしが見えてきます。

前回もお話したように、これからは、<起業>は特別なことではなくなります。

就活・就社となんら変わることの無い活動のひとつになります。

つまり、<起業家>は、<わたしのライフスタイル>となるのです。


戦後から現在までの流れを、駆け足でみてきましたが、、、

<英雄> ⇒ <アウトサイダー/はみだし者> ⇒ <ベンチャー/成功者> ⇒ <わたしのライフスタイル>

このように、<起業家>像は、しだいに普通の個人へと近づいてきたのですね。

今日の話のポイントは、、、<起業家>像が変遷し、<起業家>という選択が、ごく限られた人の特別な生き方や、社会的成功や金儲けのことではなく、普通の個人の<わたしのライフスタイル>になったということ、、、、、です。


大久保忠男


** 以上は、2013年7月31日配信<起業レッスン>の再掲です *
  
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